パオロ・マッツァリーノ

統計上、1970年ごろからこどもの体力が低下傾向にあるのは事実です。むかしはひ弱なこどもなんていなかったという話も、あながちウソではありません。でもそれって本当に、「むかしはよかった」のでしょうか。 むかしは乳幼児死亡率が異常に高かったことをお忘れですか。2015年現在、生後1年以内に死ぬ乳児は、1000人中2人か3人といったところ。でも1975年には10人いました。つい40年前までは、赤ん坊の100人に1人は死んでたんです。戦前の状況なんて悲惨です。生まれた子どもの10人に1人は1年以内に死んでたんですから。 要するに、むかしは体力のないひ弱な子は、乳幼児の段階でふるいにかけられていた可能性が高いのです。ひ弱な子はこの世に存在できなかったのです。 いまは医療技術や衛生環境が向上し、事故や犯罪が減ったことで、弱いこどもでも生きられる社会になりました。私はそんないまの日本社会を素晴らしいと思います。弱い子がなすすべもなく死んでいった冷酷な時代を、むかしはよかったね、と懐かしむ人たちの気が知れません。